デジタルノマドに新たな在留資格
デジタルノマドとは、インターネットを駆使して、自由に国内外を旅行しながら好きな時間に好きな場所で働く人たちのことを指します。
3月29日、日本政府は、より多くのデジタルノマドを呼び込むための施策として、新たな在留資格を導入致しました。
日本政府の狙いや、その在留資格はどのようなものなのでしょうか。
デジタルノマドとは?
デジタルノマドとは、ノマド(遊牧民)のように、場所に縛られず、IT技術を使って世界中を旅行しながら仕事をする人たち、つまり国際的なリモートワーカーのことを指します。具体的には、インターネットと端末があれば仕事ができる、ITエンジニア、デザイナー、ライター、コンサルタント、研究者などです。ユーチューバーなどのインフルエンサーもこれに当てはまりますね。 デジタルノマドは、今や世界中に約3500万人おり、現在も増加傾向にあります。 そんな彼らにとって、日本は人気の国の一つです。清潔、安全、優しい国民性などが彼らには魅力のようです。
デジタルノマドの影響力
デジタルノマドは、平均月収も約80万円と、高収入の人が多く、積極的にオフを楽しむ人が殆どで、消費意欲も盛んです。彼らが生み出す消費の規模は、年間約110兆円ともいわれています。世界各国では、彼らを呼び込むことで、地域の消費拡大、地域の人材の協働を通じたイノベーション創出等に貢献するものとして注目されております。 そのような状況の中、昨今、「新しい資本主義」を掲げた日本政府は、地方創生やグローバル競争力の強化、新しい働き方の推進等に取り組んできました。その中でもデジタルノマドが日本で滞在することで、インバウンド増加による経済効果や、デジタルノマドの方と日本人の交流による我が国のイノベーションの促進につながることに大きな期待しています。実際、彼らは、滞在国に対して感謝の気持ちを持つ者が多く、何らかの形での恩返しを考えています。それは、消費であったり、彼らの得意とするスキルを地元に広めたりと、様々な形があります。
デジタルノマドと在留資格
デジタルノマドが訪問国に滞在するには、当然ですが、その国の在留資格を取得しなければなりません。従来、日本では、原則就労が出来ない「短期滞在」という在留資格(いわゆるビザ)で滞在するしかありませんでした。しかも、その在留資格の滞在期間は最長でも90日しかなく、比較的長期間滞在する彼らにとって、日本を訪問する上で大きな足かせとなっていました。
日本政府と法務省は、デジタルノマドの誘致を促進するため、新たな在留資格の枠組みを検討してきた結果、3月29日に、その新しい在留資格を導入しました。
デジタルノマドを対象とした新な在留資格とは
デジタルノマドを呼び込むにあたっての、前述の従来の在留資格が持つ課題を解決するために、「特定活動」という在留資格の一つとして、下記の要件を満たせば滞在が認められる枠組みが追加されました。
1. 外国の法令に準拠して設立された法人その他の外国の団体との雇用契約に基づいて、 本邦において情報通信技術を用いて当該団体の外国にある事業所における業務に従事する 活動又は外国にある者に対し、情報通信技術を用いて役務を有償で提供し、若しくは物品等を販売等する活動(本邦に入国しなければ提供又は販売等できないものを除く。)。 また、次のいずれにも該当すること。
① 本邦に上陸する年の1月1日から12月31日までのいずれかの日において開始し、 又は終了する12月の期間の全てにおいて、本邦での滞在期間が6か月を超えないこと
② 租税条約の締約国等かつ査証免除国・地域の国籍者等であること
③ 年収が1,000万円以上であること
④ 本邦滞在中に死亡、負傷又は疾病に罹患した場合における保険に加入し ていること
2. 国際的なリモートワーカーの配偶者又は子として行う日常的な活動 また、次のいずれにも該当すること。
⑤ 査証免除国・地域の国籍者等であること
⑥ 本邦滞在中に死亡、負傷又は疾病に罹患した場合における保険に加入し ていること
解り辛いので、以下に解説をします。
1. は、今回の在留資格が、海外の企業で雇用された者が、その国の事業所での仕事をインターネットなどを使用して日本で働く場合や、海外の人や会社に対し、インターネットを使用した仕事を請け負ったり、(日本に居なくても販売可能な)商品を売る場合に適用されることを示しています。
① 滞在は最長で6か月であるという意味です。
② ビザデジタルノマドは中長期在留者には分類されていません。したがって、住民票を作成できないため、住民税等の納税が発生しません。こうした観点から、所得税を免除する租税条約の締結国の国籍者に限定する要件となっています。 また、不正入国や不正在留、在留中の犯罪などのリスクに対処するため、デジタルノマドの国籍を査証(ビザ)免除国(*)に限定しています。にもかかわらず、査証の申請を必要とするという、厳重な内容となっています。
③ デジタルノマドによる経済効果を効率的に促進するために、一定以上の収入要件を設けたと思われます。
④ 前述の通り、デジタルノマドは住民票を作成できないため、国民健康保険にも入れません。そのため、疾病や傷害の保険に加入している必要があるとしています。
(*) 短期滞在ならビザなしで入国できる取決めを日本と締結した、約71の国と地域 ⇒ https://www.mofa.go.jp/mofaj/toko/visa/tanki/novisa.html
2. は、そのデジタルノマドが扶養する配偶者や子供を帯同させて来日することが可能であることを示しています。少しでもデジタルノマドの日本への受け入れを促進することが目的です。こちらも査証国の国籍者であることと、保険の加入が要件となっています。
新たな在留資格による影響と課題
今回新たに作られた制度により、日本に滞在するデジタルノマドが増加すると思われます。これに伴い、単にお金を落としてくれるだけでなく、新たなビジネスや、地域の交流から新たなイノベーションが生まれてくると期待されています。
たとえば、また、ビジネス滞在の外国人向けの賃貸住宅を運営している三菱地所は、今回の制度を受けて、2050年までに1万室まで規模を拡張する計画をしています。
このように、今回の施策は良いこと尽くめのように思えますが、課題もあります。 それは在留期間が短いことです。従来の2倍になったとはいえ、最長でも6か月しかありません。 しかも、期間の更新が認められていないため、6か月以上日本に居たい場合は、一旦出国してから同じ在留資格を再申請しなければなりません。これはかなり煩わしいです。 他国を見ると、在留期間の設定は殆どが1年以上で、お隣の韓国では2月より実験的に在留期間を2年としています。法務省は「今後状況を注視しながら延長することも検討するが、まずは6か月から始めることが適当であると判断した」とコメントしていますが、同じ「実験的」でも随分と認識に差があるものですね。